今月の逸品
過去に展示した今月の逸品
祈りを丸めた玉
「ざっと拝んで お仙の茶屋へ
腰をかけたら 渋茶を出した
渋茶よこよこ横目で見たらば
土の団子か、米の団子か」
わらべ歌『向こう横丁のお稲荷さん』
土玉、カワラケ
江戸時代(約200~300年前)
原町西遺跡(文京区白山)
"疫病"と問われて、今真っ先に頭に浮かぶのはコロナであろうし、近代には虎列刺(※1)やスペイン風邪(※2)などの大流行もあった。しかし、江戸時代に恐れられていた流行り病といえば、まず疱瘡(天然痘)を挙げるべきであろう。流行が常態化していた上に致死率も高く、治癒したとしても後の器量に大きく障るこの病は、特に子供の成長過程において大きな鬼門となっていた。その上、当時は治療も予防もかなわない。そんな脅威を前にして、人々に出来ることと言えば只々神にすがることのみであった。
江戸中期に稲荷社が遷座されたとされる旗本屋敷の一角から姿を現した供え物の土玉とカワラケ達。その夥しい量は、当時の流行の凄まじさを語る紛れもない証拠である。玉といっても粘土をただ小さく丸めただけのものだが、その一つ一つには、熱に魘され死の淵に瀕した我が子や身内などへの切なる思いが込められている。
※1;コレラ ※2;インフルエンザ
次回の更新予定
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